ISO 9001認証を取得しても、品質は上がらない

――品質を生み出すのは、認証書ではなく機能する組織である

ISO 9001の改訂が進んでいます。

2026年7月現在、改訂版は最終国際規格案の段階にあり、正式発行は2026年9月に予定されています。

今回の改訂を機に、現在のISO 9001への取り組みを棚卸しし、改訂版の要求事項と照合する必要があります。

しかし、私はその前に考えなければならないことがあると思っています。

それは、

ISO 9001の認証を取得すれば、本当に会社の品質は向上するのか

という問題です。

私は30年以上、品質保証と品質管理の業務に携わってきました。

その経験から感じていることは、残念ながら、

ISO 9001の認証を取得しただけでは、品質は上がらない

ということです。

ISO認証の維持が目的になってしまう

ISO 9001は、本来、会社の品質マネジメントシステムを継続的に改善するための道具です。

しかし、実際の運用では、いつの間にか認証の取得と維持が目的になってしまいます。

内部監査や認証機関による審査が近づくと、ISO事務局から各部門へ資料の提出を求めます。

各部門は、監査を受けるために必要な資料を準備します。

不足している記録があれば補い、説明しにくい部分があれば、事務局と審査員との間で着地点を調整します。

そして、よほど重大な問題がなければ、認証は継続されます。

ところが、監査が終わると日常の業務に戻り、指摘された問題や本来改善すべき仕組みが、そのまま放置されることがあります。

この状態では、監査を通過するための能力は高まっても、会社の品質を向上させる能力は高まりません。

認証機関の審査で不適合が出なかったことと、会社の品質マネジメントシステムが有効に機能していることは、必ずしも同じではありません。

ISO事務局が会社へ悪影響を与える場合もある

これまでの経験では、ISOの専任者や事務局担当者が、かえって会社へ悪影響を与えている場合もありました。

ISOの要求事項が絶対に正しいと思い込み、現場の実情や本来解決すべき問題から離れた要求をすることがあります。

規格に書かれているからという理由だけで帳票を増やし、資料の提出を各部門へ求めます。

しかし、その資料が実際の問題解決に使用されているか、決められた仕組みが定着しているか、さらに改善されているかまでは確認しません。

その結果、現場にとってISOは、

品質を良くするための仕組みではなく、仕事を増やす仕組み

になってしまいます。

また、事務局が各部門に対して上から目線で指示をするケースもあります。

しかし、ISO事務局は会社の各部門より上位にある組織ではありません。

本来の役割は、各部門の問題解決を支援し、会社全体の品質保証の仕組みをつなぎ、維持することです。

品質を作るのは品質部門だけではない

製品の品質は、品質部門が最後に検査することで作られるものではありません。

品質は、会社のすべての部門がつながることによって作られます。

まず、営業部門が市場や顧客の情報を集め、どのような製品が求められているのかを把握します。

企画部門は、その情報を基に商品の価値や方向性を定めます。

開発・設計部門は、企画された内容を具体的な仕様や設計へ落とし込みます。

資材・購買部門は、その設計を実現するために、適切な部品と供給者を選定します。

生産技術部門は、設計された製品を安定して生産するための工程、設備、作業方法、管理条件を構築します。

生産部門は、決められた方法に従って、安定した製品を作ります。

品質部門は、設計の妥当性、購入部品の受入、工程の管理状態、製品の出荷保証、市場で発生した問題への対応を確認します。

物流部門は、完成した製品を損傷や取り違えなく顧客へ届け、確実に受領してもらえる状態を作ります。

アフターサービスで得られた市場情報は、再び営業、企画、開発、生産へ戻され、次の商品や工程の改善に利用されます。

そして、この一連の組織を作り、責任と権限を決め、人員、設備、教育、時間などの経営資源を配分するのが経営者です。

つまり、品質とは、

会社全体が協力して、より良いものを創出する活動

なのです。

品質保証体系図は、会社の品質活動の設計図

この会社全体の流れを示すものが、品質保証体系図です。

品質保証体系図は、ISO監査の際に提示するための図ではありません。

また、品質部門の仕事だけを示す図でもありません。

品質保証体系図には、

  • 顧客要求をどこで受け取るのか
  • どの部門が要求を仕様へ変換するのか
  • どこで設計を審査するのか
  • どのように部品と供給者を選定するのか
  • どのように工程を設計するのか
  • 誰が生産条件を管理するのか
  • どこで品質を確認し、誰が判断するのか
  • 異常が発生した場合、どこへ情報を戻すのか
  • 市場情報をどのように次の商品へ反映するのか

が表されていなければなりません。

さらに重要なのは、体系図に描かれた箱ではなく、部門と部門をつなぐ矢印です。

多くの品質問題は、一つの部門の中だけで発生するのではなく、部門間の情報の受け渡し部分で発生します。

例えば、営業から開発へ顧客要求が正確に伝わっていなければ、設計は正しくても顧客が求める製品にはなりません。

開発から生産技術へ、重要品質特性や管理条件が伝わっていなければ、量産工程は安定しません。

市場不良の情報が開発や購買へ戻らなければ、同じ不良が繰り返されます。

したがって、品質保証体系図とは、

会社全体で品質を作り込む責任と情報の流れを示す設計図

であるべきです。

機能する組織が先で、ISO認証は後

ISO 9001の要求事項には、組織の状況、リーダーシップ、責任と権限、力量、リスク、改善などが含まれています。

しかし、これらの要求事項を帳票や議事録だけで証明しても、組織が実際に機能していなければ意味がありません。

まず必要なのは、

  • 問題が隠されず報告される組織
  • 責任と権限が明確な組織
  • 真因を追究できる組織
  • 対策の効果を確認できる組織
  • 同じ失敗から学習できる組織
  • 部門を越えて情報を共有できる組織
  • 必要な経営資源を投入できる組織

です。

そのような組織があり、その活動を維持し、確認するためにISO 9001を利用するのであれば、認証には意味があります。

しかし、機能する組織がない状態でISOの手順書や帳票だけを追加しても、監査用の資料が増えるだけです。

順序は、

ISOの要求事項に会社を合わせる

のではなく、

良い製品を生み出せる会社の仕組みを作り、その仕組みをISOの要求事項で確認する

でなければなりません。

経営者の本気度は、経営資源の配分に表れる

経営者は、「品質第一」「顧客満足」「再発防止」といった立派な言葉を掲げます。

しかし、本当に品質を重視しているかどうかは、言葉ではなく行動に表れます。

特に重要なのが、経営資源の投入です。

品質問題を解決するための人員を配置しない。

原因解析や検証に必要な時間を与えない。

教育や技能継承の時間を確保しない。

問題解決ができる人材を育成しない。

各部門に品質上の責任を持たせない。

このような状態で「品質第一」と言っても、実際の優先順位は品質ではありません。

ただし、中小企業には、大企業とは異なる厳しい事情があります。

人を増やしたくても、人材そのものを確保できないことがあります。

現有人員で多くの業務を兼務し、高齢化も進み、いつ欠員が発生するか分からない状況もあります。

そのため、中小企業のQMSは、大企業の仕組みをそのまま縮小して導入するのではなく、

少人数でも維持でき、欠員が発生しても最低限の品質保証が止まらない仕組み

にする必要があります。

今回の改訂対応は、まず見える化から始める

ISO 9001の改訂に対応するため、いきなり新しい手順や帳票を作るべきではありません。

まず必要なのは、現在のISOへの取り組みと、会社全体の業務の棚卸しです。

確認すべき内容は、

  • どのような業務があるのか
  • 何のために実施しているのか
  • 誰が担当しているのか
  • どれだけの工数がかかっているのか
  • どの帳票やシステムを使用しているのか
  • 誰が何を判断しているのか
  • どの記録がエビデンスとして残るのか
  • その記録が実際に何へ使われているのか
  • どこが属人化しているのか
  • 欠員が出た場合に何が止まるのか
  • 重複、形骸化、未実施となっているものはないか

です。

その棚卸し結果を品質保証体系図へ落とし込み、現在の仕組みが実際の業務と一致しているかを確認します。

その後に初めて、改訂版の要求事項と照合します。

この順序で進めれば、既存の仕組みで対応できている部分と、本当に不足している部分を区別できます。

規格改訂のたびに作り直さないQMSを目指す

ISO 9001は、今後も改訂される可能性があります。

そのたびに条文番号に合わせて手順書や帳票を作り直すようなシステムでは、維持するだけで大きな負担になります。

目指すべきなのは、規格の版に依存しないQMSです。

会社の基本システムを、

  • 顧客要求の把握
  • 商品企画
  • 設計・開発
  • 購買・供給者管理
  • 工程設計
  • 生産管理
  • 品質保証
  • 物流
  • アフターサービス
  • 問題解決
  • 変更管理
  • 人材育成
  • 経営判断
  • 継続的改善

という実際の業務機能を中心に構築します。

ISOの条文番号との関係は、別の対応表で管理すればよいのです。

規格が改訂された場合は、その対応表を見直し、新しい要求が既存のどの機能に該当するかを確認します。

不足している機能だけを補強すれば、会社の仕組み全体を作り直す必要はありません。

ISO 9001は品質を保証する看板ではない

現在では、ISO 9001認証を取得していることは、取引条件として求められることも多く、取得しているだけでは大きな差別化にはなりません。

名刺や会社案内に「ISO 9001認証取得」と記載することはできます。

しかし、認証を取得していても、

  • 同じ不良が繰り返される
  • 問題が隠される
  • 責任転嫁が行われる
  • 是正処置が定着しない
  • 監査前だけ記録を整える
  • 経営者が必要な資源を投入しない

のであれば、その認証は品質の高さを示すものではありません。

本当に強い会社とは、

ISOがなくても品質活動が日常業務として回り、その事実をISO監査で説明できる会社

だと思います。

認証書が品質を作るのではありません。

品質を作るのは、顧客の声を聞き、良い製品を企画し、設計し、適切な部品を調達し、安定した工程で生産し、確実に顧客へ届け、市場の結果から学ぶ組織です。

そして、その組織を作る責任は経営者にあります。

まず機能する組織がある。

次に、会社全体の品質保証体系がある。

ISO 9001認証は、その仕組みが適切に管理されていることを確認するための一つの手段です。

この順序を間違えてはならないと思います。

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